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相続・登記コラム

木にも登記があるって知ってましたか?山梨のぶどう畑で考えた立木登記と明認方法の話

先日、山梨まで足をのばしてきました。毎年この時期になると出かけている、ぶどう農園です。妻が知り合った縁で通いはじめて、今ではすっかり夏の恒例行事になりました。

山下果実園さんという農園なのですが、ここのぶどうが本当においしいんです。押し売りするつもりはまったくないので、ご興味のある方だけそっと覗いてみてください。山下果実園さんのページです。

で、棚の下から房を見上げながら、ふと考えてしまったんですよね。「この実は、法律上は誰のものなんだろう」と。完全に職業病です。せっかくなので、今回はその話を書いてみます。「意外な登記シリーズ」の4本目、木と果実の登記の話です。

木や果実は、土地とは別に売り買いできるの?

結論から言うと、原則としてはできません。でも例外があります。

民法では、土地に定着しているものは土地の一部として扱われます。庭に生えている木も、畑になっている実も、法律上は「土地の一部」。ですから土地を売れば、そこに生えている木も一緒についていくのが原則です。

ところが日本では、昔から「山の木だけを買う」「収穫前のみかんを畑ごと買い付ける」という取引が普通に行われてきました。木材業者が立っている木だけを買い、あとで伐り出す。仲買人が枝についたままのみかんを買い付けて、収穫時期に取りにくる。実際にそういう商習慣があるのに、法律が「土地の一部だから別々には売れません」と言い切ってしまうと、現場が回らないわけです。

そこで、木や果実を土地と切り離して扱うための仕組みが用意されました。それが立木登記明認方法という、二つのルートです。

立木(りゅうぼく)にも登記があるって本当?

本当です。「立木ニ関スル法律」という、明治42年にできた法律があります。略して立木法。カタカナ書きの条文がそのまま残っている、なかなか年季の入った法律です。

この法律にもとづいて所有権保存の登記を受けた樹木の集団は「立木」と呼ばれ、不動産とみなされます。不動産とみなされるということは、土地と切り離して譲渡できるし、抵当権を設定することもできるということ。しかも、土地の所有権や地上権を処分しても、その効力は登記された立木には及びません。つまり土地が売られても、木は木で自分のもの、という状態がつくれるわけです。

登記できる樹木の集団の範囲は、昭和7年の勅令で細かく決められています。別表に樹種がずらりと並んでいるのですが、あかがし、えぞまつ、かつら、けやき、すぎ、ひのき……といった具合で、見事に林業向けのラインナップです。実務でも、この制度が使われるのはほぼ山林。スギやヒノキの人工林を、土地とは別に担保に入れたり売買したりする場面です。

ですから、ぶどう畑のぶどう棚がこの制度に乗ることは、まずありません。そもそもぶどうはつる性の植物なので、「樹木の集団」という言葉の座りもよくないですし。残念といえば残念です。

登記できない木は、どうやって「自分のもの」と示すの?

ここで出てくるのが明認方法(めいにんほうほう)です。これは民法に条文があるわけではなく、古くからの慣習を裁判所が認めてきた、いわば慣習法上の公示方法です。

やり方は、拍子抜けするほど原始的です。判例で認められてきたのは、たとえばこんな方法。

  • 木の皮を削って、所有者の名前を墨で書く
  • 立札を立てて、所有者名を表示する
  • 一定の区域を縄張りして、範囲を示す
  • 山林の中に炭焼小屋を作って、伐採に着手する

要するに「この木は私のものです」と、通りがかった人が見てわかるようにしておく。それだけで、登記に代わる対抗要件として認められるのです。不動産登記法という精緻な制度を毎日扱っている身からすると、なかなかグッとくる大らかさです。

そして、この明認方法の対象になるのは立木だけではありません。未分離の果実——つまり、まだ枝についたままの果実も対象になります。判例で有名なのはみかんと稲立毛(刈り取り前の稲)ですが、理屈のうえでは、あのぶどうの房も明認方法の対象になりうるということです。ぶどう棚に「この房は○○さんのものです」と札を立てておけば、法律上はそれで所有権を主張できる。実際にそんなことをしている農園は見たことがありませんが、制度としてはそうなっています。

明認方法は、いつまで有効なの?

ここが、この話でいちばん面白いところです。答えは、「消えたら、そこで終わり」

最高裁の昭和36年5月4日判決は、明認方法は登記に代わるものとして第三者が容易に所有権を認識できる手段でなければならず、しかも第三者が利害関係を持つ時点でもその効果をもって存在していなければならないとしています。いったん明認方法を施したとしても、その後に消失などで公示として働かなくなっていれば、その第三者には対抗できない、と。

この事件では、実際にそれが起きました。山林を買った人が最初は標示を施していたのに、十年ほど経つ頃にはもう見当たらなくなっていた。その間に別の人が同じ立木を買い、こちらは山林の要所に杭を立て、四、五か所で木を削って標示をし、それが後の買主の取得時にも残っていた。結果、先に買っていたはずの人が負けました。

登記は、放っておいても消えません。百年前の登記でも、記録として残り続けます。でも明認方法は、墨が薄れれば消え、立札が倒れれば消える。「手入れをやめた瞬間に効力を失う公示」なんですね。同じ「所有権を世の中に示す」という機能でも、登記制度がなぜあれほど手間のかかる形で維持されているのか、この対比を見ると腑に落ちる気がします。

これは相続とどう関係するの?

大いに関係します。山林や果樹園も、当然ながら相続の対象だからです。

令和6年4月から相続登記が義務化されましたが、これは宅地や自宅だけの話ではありません。山林も畑も、相続登記の対象です。そして実務でよく起きるのが、この山林の見落としです。

ご相談を受けていて、「実家の土地建物だけだと思っていました」というケースは本当に多いんです。ところが名寄帳や固定資産税の課税明細を取り寄せてみると、山林や原野が何筆も出てくる。評価額が低くて課税されていないと納税通知書に載ってこないこともあり、ご家族が存在自体をご存じないまま、何十年も名義が変わっていない。そういう不動産が、地方にはたくさん眠っています。

さらに、もしその山林について立木登記がされていれば、立木は土地とは別個の不動産です。土地の相続登記をしただけでは終わらず、立木についても別に登記が必要になります。頻度としては多くありませんが、山林を多く持っておられた家では実際にありうる話です。

なお、山林や農地の相続税評価は宅地とはまったく別の考え方をしますし、農地には納税猶予の制度もあります。このあたりの税務の判断は必ず税理士にご確認ください。私からは断定できない領域です。

遠方の不動産でも相談できますか?

できます。ここは安心していただいて大丈夫です。

不動産登記はオンライン申請ができるため、対象の不動産が北海道にあっても九州にあっても、手続きそのものは進められます。当事務所は東京都杉並区の阿佐谷にありますが、地方の山林や農地の相続登記を扱うことは珍しくありません。

ご相談も、オンライン面談と郵送でのやりとりで完結します。「実家が山梨で、相続した山があるらしいけれど、どこにあるのかもわからない」——そんな段階からで大丈夫です。まずは名寄帳を取り寄せて、何がどこにあるのかを洗い出すところから一緒に進めていきます。相続登記・遺産承継は500件以上お手伝いしてきましたので、こうした「まず全体像がわからない」というご相談にも慣れています。

まとめ

  • 木や果実は原則として土地の一部だが、昔から土地と切り離して取引する慣習があった
  • 立木ニ関スル法律にもとづき所有権保存登記を受けた樹木の集団は「立木」として不動産とみなされ、単独で譲渡・抵当権設定ができる
  • 登記によらない場合は「明認方法」——樹皮への墨書、立札、縄張りなど——が慣習法上の対抗要件として認められている
  • 未分離の果実、つまり枝についたままの実も明認方法の対象になる
  • 明認方法は第三者が利害関係を取得する時点でも機能していなければならず、消えてしまえば対抗できない(最判昭和36年5月4日)
  • 山林や果樹園も相続登記の対象。名寄帳で存在自体を確認することから始めるとよい
  • 遠方の不動産の登記も、オンライン申請と郵送で対応可能

来年もまた、あの棚の下に立つのだと思います。そのときは何も考えず、ただおいしくいただくつもりです。


司法書士くぼた事務所(東京都杉並区阿佐谷南)
相続登記・不動産登記・遺言・家族信託を専門とする司法書士事務所です。荻窪・阿佐ヶ谷・鷺ノ宮・下井草・西荻窪・高円寺・中野区・練馬区・武蔵野市エリアの方からもご相談いただいています。JR中央線・総武線・地下鉄丸ノ内線「阿佐ヶ谷駅」「南阿佐ヶ谷駅」、西武新宿線「中村橋駅」周辺からもアクセスしやすい立地です。遠方の不動産に関するご相談も承っております。
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2026年8月17日

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